今回紹介する本は『宇宙から帰ってきた日本人 -日本人宇宙飛行士全12人の証言-』という本です。
- 作者:連, 稲泉
- 発売日: 2019/11/13
- メディア: 単行本
著者の稲泉連さんが日本人宇宙飛行士12人全員にインタビューを実施し、その結果をトピックごとにまとめた形式です。
ただ厳密に言えば、秋山豊寛さんを宇宙飛行士とするかは議論が分かれるところですね。
一言で言えば、日本で言う宇宙飛行士はJAXA所属・公認の人であって、秋山豊寛さんはロシアが認めた宇宙飛行士という感じでしょうか。
それも、名目としては「宇宙特派員」という報道目的ですし。
多分、JAXA的には宇宙飛行士としては見なされてないですね。
www.jaxa.jp
ちなみに秋山豊寛さんの『宇宙よ』という本も読んだことあるのですが、こちらもオススメできます。
宇宙に行く前に浣腸をする話とか、宇宙だとナニが悲しくなるほど縮みあがるみたいな一般の宇宙飛行士の本では触れられてない話までカバーしていますので。まあそんな細かいところは置いといて、本題に入りたいと思います。
それぞれの内観の変化にフォーカスした質問とその回答の多様性がすごく面白かったですね。
特に、当たり前かもしれないんですけど、バックグラウンドであったり、時代によって答えが大きく分かれている事。
例えば、この本の中でも多くの宇宙飛行士が読んだことがある、人によっては宇宙飛行士のきっかけになっていると言っている、『宇宙からの帰還』ではアポロ時代に宇宙に行った宇宙飛行士たちは大きく人生観が変わったと述べています。
- 作者:立花 隆
- 発売日: 1985/07/10
- メディア: 文庫
一番わかりやすい例として、アーウィンという人は月に行った後にキリスト教の伝道師に転向しています。
宇宙情報センター / SPACE INFORMATION CENTER :ジェームズ・B・アーウィン
しかし、一番最近宇宙に行った金井宣茂さんは宇宙に行く前のインタビューでも「自分は何一つ変わることないだろう」と、実際帰還後のインタビューにも「やっぱり宇宙は私にとって、出張として言ってきた場所だった、という印象は実際に体験しても変わりませんでした」と述べています。
どうしてこれほど大きな差が出ているのか?
この本での証言をまとめると、答えは大きく二つに分けられます。
①宇宙における活動の違い
②時代的背景の違い
それぞれ以下で詳細に説明します。
①宇宙における活動の違い
アポロ時代は宇宙飛行士が月まで行って、地球の全景がマーブル玉ぐらいの大きさに見える距離まで行ってます。
アポロ8号で撮られた「地球の出」という有名な写真。 地球の出 - Wikipedia
(出典:Earthrise | NASA)
数字で説明すると、月は地球から約38万kmの距離にあるのに対して、ISSは高度400㎞程度。
宇宙兄弟では「地球をサッカーボールとするとISSはボールを掴んだ時の爪先ぐらいの高さ」という説明があった気がします。
要するにISSって実は地球からすぐ近くにあるんです。
そのため本書の中でも、宇宙にいて不安だったか?という質問に対し、ISSから地球が圧倒的な存在感を持ってすぐ近くにあり、何かあればすぐ地球に帰れるという安心感があった。という回答が為されています。
また、ISSに行っても滞在するだけと、EVA(船外活動)を行うのでは大きな差があるとも語られていました。
こういった同じ宇宙に行くという活動でも、質が大きく異なっているということが要因の一つにあると思います。
月でも一応地球は見えてるわけですが、将来的に月を越えて火星に行って地球が無数の星の一つにしか見えなくなったとき、月面体験以上の大きな変化が人間には訪れるんじゃないでしょうか。
(出典:Earth From Mars, Mars From Earth | NASA Solar System Exploration)
②時代的背景の違い
一言で言えば、技術の進歩や時代の移り変わりによって、宇宙が身近な時代になっています。
ISSからの景色もわざわざISSに行かずとも、ライブ中継でいつでもどこでも見れる時代になっています。
ISSから観る今の地球 ライブ中継
なんなら月旅行に前澤社長が行く時代が来ているぐらいですし。
月に行くことにしました。アーティストと共に。 #dearMoon https://t.co/ivMypEcWBZ
— Yusaku Maezawa (MZ) 前澤 友作 (@yousuck2020) 2018年9月18日
そして、『宇宙からの帰還』でも本書『宇宙から帰ってきた日本人』でも一番面白かったのは多くの宇宙飛行士が共通して、
強烈な体験であってもそれを表現できないことがもどかしい
というニュアンスの事を言っていることです。
彼らはあくまでも技術者として宇宙に行っていますが、今後はそういったテクニカルな面はロボットとかに代替されていくでしょう。
いわば宇宙に行くことが目的の時代が終わり、宇宙に行ってアーティストがインスピレーションを得て何かを表現する、もしくは宇宙旅行という商売をするといった、宇宙が手段となる時代が近づいています。
前澤社長のアーティストと共に月に行く話は、今後の宇宙開発のうえで欠かせないステップだと思います。
他にも宇宙飛行士を目指しているタレントの黒田有彩さんのインタビュー記事でも
2008年に宇宙飛行士試験の応募書類を出した数年後、山崎直子さんにお話を伺う機会があったのです。このとき、「これからは黒田さんのような"伝える"仕事をされている人が宇宙飛行士になることで、より多くの方に宇宙のことを知っていただけると思いますよ」と言っていただいたのです。
宇宙飛行士を目指すタレント・黒田有彩が「宇宙に近づくために今やっていること」 | ライフハッカー[日本版]
とあるように、今後は宇宙に行くうえで宇宙で何をして、そして人にどう伝えるかという能力が求められてくるんじゃないでしょうか。
タイトル詐欺にならないように改めて答えておくと
宇宙体験は時代背景やバックグラウンドに依存して、何らかの変化をもたらすかもしれないが、これまで宇宙に行った人々はそれを表現しきれていない
といった感じでしょうか。
正直に言うと本書は『宇宙からの帰還』と比べると記述の密度や深さといった部分では劣ります。
しかし『宇宙からの帰還』を読んだうえで本書を読むことで、時代の移り変わりや、現代の情勢に即した感想を知ることが出来るので可能であれば二冊とも読むことをお勧めします。